2025年 | プレスリリース?研究成果
てんかん手術後の言語性記憶が低下するリスクを予測-左右の海馬のはたらきの違いを新手法で検出-
【本学研究者情報】
〇東北大学大学院医学系研究科
高次機能障害学分野
助教 柿沼 一雄
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- てんかん(注1)治療のための手術では、脳機能低下が生じる可能性がありますが、複雑な高次機能障害を術前に予測することは困難でした。
- 記憶にとって重要な海馬(注2)を選択的に麻酔し、細分化した記憶機能の評価と融合させた新手法 「PCA-SAFE」(注3)により、海馬を含む切除手術での言語性記憶(言葉の情報を覚える力)(注4)が低下するリスク予測を可能にしました。
- 本手法は術後の言語性記憶の低下を約91%という高い精度で予測し、患者が治療のメリット?デメリットを判断するための重要な情報を提供することが期待されます。
【概要】
てんかん外科手術では、発作の原因となる脳部位切除することで発作を改善させる効果が認められている一方で、手術後に記憶機能が低下する可能性があります。記憶の働きには個人差が大きく、複雑な高次機能障害を術前に予測することは困難でした。
東北大学大学院医学系研究科の高次機能障害学分野の柿沼 一雄助教、菊地花大学院生(研究当時)、同科神経外科学分野、同科てんかん学分野の研究グループ は、てんかん患者の手術前の検査として、海馬を選択的に麻酔する新手法「PCA-SAFE」を提案しました。このPCA-SAFEを実施した過去の患者データに基づいて、PCA-SAFEで予測された記憶力低下と、実際の手術後の記憶力低下の一致を検討しました。その結果、PCA-SAFEによって、「言語性記憶」が低下するリスクの高い患者を、約91%という高い精度(感度 (注5)83.3%?特異度(注6)100%)で判別できることが示唆されました(図1)。今後は本手法の標準化を進め、より多くの医療機関で導入可能な評価法とすることを目指します。
本研究成果は、2025年12月5日付でJournal of Neurosurgeryに掲載されました。
図1.新手法「PCA-SAFE」による記憶低下のリスク予測
PCA-SAFEによって「高リスク」と「低リスク」と予測された患者群を横軸、手術後の言語性記憶の低下を縦軸に示した。正の値が大きいほど言語性記憶の低下が大きいことを示す。対象患者11例のうち10例で手術後の記憶低下が正しく予測された。
【用語解説】
注1. てんかん
脳の神経細胞の過剰な興奮によって、特徴的なてんかん発作や脳機能低下などを来す慢性の脳疾患。人口の約1%がてんかんに罹患するとされている。
注2. 海馬
脳の側頭葉の内側に左右1つずつあり、新しい出来事や情報を記憶する上で重要な役割を果たす脳部位。側頭葉てんかんの手術でこの部位を切除する場合、手術後に記憶力が低下するリスクがあるため、事前の慎重な機能評価が必要となる。
注3. PCA-SAFE
後大脳動脈のみに麻酔薬を投与することで、記憶の中枢である海馬の機能を一時的に抑制する。これにより、言葉の機能を保ったまま、純粋な記憶力のみを検査することができる。
注4. 言語性記憶
単語のリストや文章、会話の内容など、言語的な情報の記憶。対義語として視覚性記憶がある。言語性記憶は就学や就労などに影響しやすい。言語機能が存在することの多い左側半球の側頭葉手術では特に低下する確率が高く、手術後の機能低下を事前に予測する方法が求められてきた。
注5. 感度
検査の性能を表す指標の一つ。この研究では、「実際に術後の記憶力低下が起きた人」のうち、検査で正しく「リスクあり」と判定できた割合のこと。この数値が高いほど、リスクのある患者を見逃さずに発見できることを意味する。本研究では83.3%という感度を示した。
注6. 特異度
検査の性能を表す指標の一つ。「実際に術後の記憶力低下が起きなかった人」のうち、検査で正しく「リスクなし」と判定できた割合のこと。この数値が高いほど、実際にはリスクが低いのに危険と判定してしまう可能性が低いことを意味する。本研究では100%の特異度を示した。
【論文情報】
タイトル:Assessment of memory lateralization by posterior cerebral artery selective anesthesia and postoperative verbal memory decline
著者: Hana Kikuchi, Kazuo Kakinuma*, Shin-Ichiro Osawa, Shoko Ota, Kazuto Katsuse, Kazushi Ukishiro, Kazutaka Jin, Shiho Sato, Shunji Mugikura, Hidenori Endo, Nobukazu Nakasato, Kyoko Suzuki
菊地 花、柿沼 一雄*、大沢 伸一郎、太田 祥子、勝瀬 一登、浮城 一司、神 一敬、佐藤 志帆、麦倉 俊司、遠藤 英徳、中里 信和、鈴木 匡子
*責任著者:東北大学大学院医学系研究科 高次機能障害学分野 助教 柿沼 一雄
掲載誌:Journal of Neurosurgery
DOI:10.3171/2025.8.JNS25878
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科高次機能障害学分野
助教 柿沼 一雄(かきぬま かずお)
TEL: 022-717-7358
Email: kazuo.kakinuma.c1*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること) 東北大学大学院医学系研究科?医学部広報室
東北大学病院広報室
TEL: 022-717-8032
Email: press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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