2025年 | プレスリリース?研究成果
酸素が拓く固体電解質の設計原理-複雑なマルチアニオンガラスにおけるイオン輸送の仕組みを解明-
【本学研究者情報】
〇多元物質科学研究所 准教授 大野真之
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 次世代蓄電デバイス構築にむけ、ハロゲン化物への酸素の導入により室温で4.1 mS cm-1の高いイオン伝導率を有するガラスを実現しました。
- 酸素が架橋酸素(Bridging Oxygen)(注1)としてイオン移動を促進する一方、非架橋酸素(Non-Bridging Oxygen)(注2)が過剰に存在すると伝導を阻害することを発見しました。
- 酸素の構造的役割を理論?実験の両面から解明し、イオン伝導性マルチアニオン化合物(Multi-Anion compound)(注3)の材料設計指針を確立しました。
【概要】
安全で高性能な次世代蓄電技術として注目されている全固体電池の開発には、固体でありながら液体のようにイオンが動き回る固体電解質が不可欠です。
東北大学 多元物質科学研究所の大野真之准教授、米国レンセラー工科大学(Rensselaer Polytechnic Institute)のPrashun Gorai助教授らの国際共同研究チームは、酸素を介したガラス構造の制御が固体電解質の性能を決定する鍵であることを突き止めました。
本研究チームは、ナトリウム酸化物と五塩化タンタル(xNa2O-TaCl5)を用いたガラス状固体電解質を合成し、酸素の導入が構造とナトリウムイオン輸送に与える影響を、実験と計算の両側面から詳細に解析しました。その結果、酸素量の変化によりナトリウムイオン伝導率が三つの領域に分かれて大きく変化し、最適組成(x ≈ 0.5 - 0.8、五塩化タンタルに対するナトリウム酸化物の割合がおよそ0.5 - 0.8)で室温において4.1 mS cm-1(電気抵抗の逆数、イオン伝導度の単位。読みはミリジーメンス毎センチメートル)の高伝導を示しました。酸素は、局所構造中で架橋酸素として金属塩化物ネットワークをつなぎ、イオンが移動する空間を広げイオン伝導を促進しますが、過剰に導入すると非架橋酸素が生成して、移動するナトリウムイオンとの相互作用を強め、イオン伝導を阻害することを発見しました。本成果により、全固体電池の基幹材料である固体電解質の新たな設計指針を確立しました。
本成果は、2025年11月11日(米国東部時間)付で、学術誌Journal of the American Chemical Societyに掲載されました。
図1. 酸素含有量による構造変化とナトリウムイオン伝導率の関係
酸素導入量の増加に伴い、架橋酸素(Ta-O-Ta)が形成され、最適組成付近で最高伝導率を示す。
【用語解説】
注1.架橋酸素(Bridging Oxygen):金属中心(Ta5+)同士をつなぐ酸素原子。ネットワークを形成しイオン移動を促進する。
注2.非架橋酸素(Non-Bridging Oxygen):単一の金属中心に結合する酸素。過剰になると局所空間を狭め、イオン移動を阻害する。
注3.マルチアニオン化合物(Multi-Anion compound):アニオンとは負の電荷を持つイオンのこと。O2-やCl-など異なる陰イオンを組み合わせ、構造と機能を最適化する材料設計手法。
【論文情報】
タイトル:Oxygen-Mediated Structural Modulation and Ion Transport in xNa2O-TaCl5 Glass Electrolytes
著者: Zheng Huang, Neha Yadav, Shun Itakura, Peng Song, Hirofumi Akamatsu, Katsuro Hayashi, Prashun Gorai*, Saneyuki Ohno*
*責任著者:レンセラー工科大学 助教授 Prashun Gorai
東北大学多元物質科学研究所 准教授 大野真之
掲載誌:Journal of the American Chemical Society
DOI:10.1021/jacs.5c10564
URL: https://doi.org/10.1021/jacs.5c10564
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
准教授 大野真之
TEL: 022-217-5816
Email: saneyuki.ohno.c8*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学 多元物質科学研究所 広報情報室
TEL: 022-217-5198
Email: press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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