2025年 | プレスリリース?研究成果
マウスで新規吸入型肺炎球菌ワクチンの開発に成功-ナノ粒子で気道粘膜免疫を誘導 感染予防に期待-
【本学研究者情報】
〇大学院医学系研究科感染病態学分野
助教 佐藤 光
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- マウスを用いて、注射式ワクチンではなく、吸入することで気道の粘膜から免疫を高めて肺炎球菌(注1)の感染を防ぐ新しいタイプのワクチンを開発しました。
- 酸化鉄ナノ粒子に肺炎球菌の抗原(PspA)(注2)を結合させ、気道から投与することにより粘膜免疫と全身免疫の両方を効率よく誘導できることを発見しました。
- 注射式ワクチンに代わる吸入型粘膜ワクチンとして、様々な呼吸器感染症の新しい予防法につながることが期待されます。
【概要】
本邦において肺炎は死因の第5位で、高齢化の進む我が国では対策は急務です。肺炎の原因菌として最も多い肺炎球菌に対しワクチンが存在しますが、現在のワクチンでカバーできないタイプの肺炎球菌が増えていることや、粘膜免疫の誘導ができず肺炎の予防効果が十分でないことなど、解決すべき問題があります。
東北大学大学院医学系研究科感染病態学分野の佐藤 光助教、石井 恵子非常勤講師、青柳 哲史教授、川上 和義名誉教授らの研究グループは、肺炎球菌の膜上に存在するPspAと呼ばれる共通タンパク質をターゲットとして、アジュバント(注3)に酸化鉄ナノ粒子を結合させた新規ワクチンを開発しました。マウスに経気道的に投与することで、粘膜免疫誘導や感染防御効果を付与することに成功しました。また、この粘膜免疫誘導にはNKT細胞(注4)が関わることも明らかとしました。
本研究は新たな粘膜ワクチンとして、種々の呼吸器感染症の予防につながることが期待されます。
本研究結果は、2025年10月31日付けで科学誌Vaccineに掲載されました。
図1. 本研究の概要。
【用語解説】
注1.肺炎球菌:肺炎、中耳炎、髄膜炎、敗血症などを引き起こす細菌の一種です。肺炎の主な原因菌として知られています。
注2.PspA:pneumococcal surface protein A。肺炎球菌の菌体表層に存在するタンパク抗原の1つです。
注3.アジュバント:抗原となるタンパク質だけを生体内に投与しても十分な免疫は誘導されません。そのため、アジュバントと呼ばれるワクチンの効果を高める物質を一緒に投与することで、より効果的な免疫を誘導することが可能となります。
注4.NKT細胞:ナチュラルキラーT細胞。T細胞とNK細胞の両方の特徴を持つリンパ球の1つです。自然免疫と獲得免疫の橋渡しを行い、病原体に対する免疫応答を制御する重要な役割を持っています。
【論文情報】
タイトル:NKT cell-dependent PspA-specific IgA production caused by mucosal administration of a novel nanoparticle pneumococcal vaccine
著者: Ayako Nakahira, Hiroki Iwaoka, Ko Sato*, Shigenari Ishizuka, Ryuhei Shiroma, Tomomitsu Miyasaka, Emi Kanno, Hiromasa Tanno, Yuki Sato, Yukihiro Akeda, Kazunori Oishi, Tetsuji Aoyagi, Keiko Ishii, Kazuyoshi Kawakami
*責任著者:東北大学大学院医学系研究科感染病態学分野 助教 佐藤 光 (さとう こう)
掲載誌:Vaccine
DOI:10.1016/j.vaccine.2025.127911
URL:https://authors.elsevier.com/sd/article/S0264-410X(25)01208-3
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科
感染病態学分野
助教 佐藤 光 (さとう こう)
TEL: 022-717-8681
Email: ko.sato.a4*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科?医学部広報室
東北大学病院広報室
TEL: 022-717-8032
Email: press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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