2025年 | プレスリリース?研究成果
高いひずみ検出感度を示すナノグラニュラー材料を開発 ― 高感度?省電力かつ高密度集積が可能なひずみゲージの実現に期待 ―
【本学研究者情報】
〇学際科学フロンティア研究所 教授 増本博
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- ナノメートルサイズの金属粒子が絶縁体セラミックス中に分散したナノグラニュラー材料(注1)が、広く利用されている金属箔ひずみゲージ(注2)の約5倍の高いひずみ検出感度を示すことを発見。原理も解明しました。
- ナノグラニュラー材料の高い電気抵抗率により、金属箔ひずみゲージと比べてひずみ受感部の1/10000以下の小型化や、省電力化が可能です。
- 省電力かつ力学情報をきめ細やかに検出する新しいひずみセンシングデバイスとして、幅広い用途でIoT社会の発展に貢献することが期待。
【概要】
物体の変形(ひずみ)を電気信号として検出するひずみゲージは、土木や医療など非常に多くの分野で利用されています。ひずみゲージの高感度化?小型化?省電力化はIoT社会の高度化にとって重要な課題です。
東北大学学際科学フロンティア研究所の増本博教授らの研究グループは、電磁材料研究所、東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)、理化学研究所との共同研究により、金属ナノ粒子が絶縁体中に分散したナノグラニュラー材料が、現在広く利用されている金属箔ひずみゲージと比べ、約5倍の大きいゲージ率(注3)と約107倍の高い電気抵抗率を示すことを発見しました。また、この大きいゲージ率が、ナノ粒子間で起こる電子のトンネル伝導(注4)と、ひずみによるナノ複合構造の変化に起因することを明らかにしました。
この新しい材料を用いることで、省電力かつひずみ受感部が1/10000以下に小型化された高感度ひずみゲージを作製できます。ひずみゲージを集積化することで高密度な力学情報の検出が可能になります。これにより、ロボティクスで人間に近いきめ細やかな動作制御が可能になるなど、新たな有用な用途が開発されることが期待できます。
本成果は2025年11月10日付で科学誌Scientific Reportsに掲載されました。
図1. a:Co26Mg18F56ナノグラニュラー薄膜の高分解能透過電子顕微鏡像。暗い粒子状の部分がCoナノ粒子で、明るい部分がMgF2マトリックスです。
b:ナノグラニュラー薄膜中での電子のトンネル伝導の模式図。電子は絶縁体をトンネルすることでナノ粒子間を伝導します。
c:ナノグラニュラー薄膜に引張ひずみを加えたときの微細構造変化の模式図。図中のsは粒子間距離、dは粒子径です。s0とd0はひずみが加わっていないときの粒子間距離と粒径です。ナノ粒子(d)は変形せず、ナノ粒子間のマトリックス(s)のみが変形することで、大きな電気抵抗の変化が起きます。
【用語解説】
注1. ナノグラニュラー材料:
「ナノ」とは、10億分の1(10-9)を表す単位の接頭語で、1ナノメートル(nm)は10億分の1メートル。「ナノグラニュラー材料」とは、母相(マトリックス)中にナノサイズの微小な粒子が分散した材料。本研究で用いたナノグラニュラー材料は、金属相のコバルト粒子を、母相のマグネシウムフッ化物(MgF2)中に分散させた材料であり、この材料の基本特許は2010年に電磁材料研究所から出願されている(特願2010-214360)。
注2. 金属箔ひずみゲージ:
金属をフィルム上に蛇行パターンとして形成したひずみゲージ。
注3. ゲージ率:
材料のひずみ検出感度の指標。材料にひずみを加えると電気抵抗が変化する。その時の電気抵抗の変化率と加えたひずみの比のことをゲージ率と呼ぶ。金属箔ひずみゲージのゲージ率はおおよそ2であるため、ひずみが0.01%加わったときの電気抵抗変化率は0.02%となる。
注4. トンネル伝導:
厚さ1ナノメートル前後の薄い絶縁体相によって2相の金属相が隔てられているとき、量子力学的効果によって電子が薄い絶縁体層をすり抜けて片方の金属相からもう片方の金属相へと移動する。このような伝導形態をトンネル伝導と呼ぶ。この現象は絶縁体相が厚いときは起こらず、電子は金属相の間を移動することができない。ナノグラニュラー薄膜では、電子は薄膜中に存在する非常に多くの金属ナノ粒子/絶縁体/金属ナノ粒子の間をトンネル伝導する。
【論文情報】
タイトル:High-sensitive mechanical response in metal-insulator nanogranular films with large gauge factor
著者:Tomoharu Uchiyama, Wang Chen, Yui Hasegawa, Nobukiyo Kobayashi, Hiroshi Masumoto*, Saburo Takahashi, Sadamichi Maekawa
*責任著者:東北大学学際科学フロンティア研究所 教授 増本博
掲載誌:Scientific Reports
DOI:10.1038/s41598-025-24084-7
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学 学際科学フロンティア研究所
教授 増本 博(ますもと ひろし)
TEL: 022-795-4405
Email: hiromasu*fris.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
東北大学 材料科学高等研究所(WPI-AIMR)
学術研究員 高橋 三郎(たかはし さぶろう)
TEL: 022-217-5958
Email: saburo.takahashi.e5*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学 学際科学フロンティア研究所
企画部 特任准教授 藤原 英明(ふじわら ひであき)
TEL: 022-795-5259
Email: hideaki*fris.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

![]()
東北大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています