2025年 | プレスリリース?研究成果
伝統的手法MEMの性能限界を明らかに ―50年以上用いられてきた信号推定手法の脆弱性を発見―
【本学研究者情報】
〇大学院情報科学研究科 特任助教 人見将
大学院情報科学研究科 教授 大関真之
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 自然科学、社会科学で広く用いられる最大エントロピー法(Maximum Entropy Method, MEM)(注1)の性能限界を理論的に解明しました。
- MEMにおいてわずかな仮定の違いが復元精度を急激に崩壊させる「相転移現象」が存在することを初めて明らかにしました。
- 信号処理や天文学、計算物理学、量子化学、言語学等に広く応用されてきたMEMの限界を示し、今後のデータ復元技術の設計指針になると期待されます。
【概要】
信号処理の代表的手法である最大エントロピー法(MEM)は、限られたノイズの多い観測から元の信号を再構成するため、地震波解析や天体観測、量子化学計算、言語学や経済学に至るまで広範な分野で利用されてきました。 東北大学大学院情報科学研究科の人見将特任助教(研究)と大関真之教授らの研究グループは、MEMの信号を復元する性能を理論的に解析し、本研究により、MEMは仮定するデフォルトモデル(注2)が実際のデータ分布と少し異なるだけで、復元性能が急激に悪化する場合があることが示されました。これは、物理学で知られる相転移(注3)と同様の現象であり、データ解析における復元結果について信頼性に対する根本的な問いを突きつけます。
さらに、信号復元の新たな手法として近年注目されるL1ノルム最小化(注4)(スパース推定)との復元性能の比較により、従来のMEMが必ずしも最適ではなく、新手法が優れる場合があることも確認しました。これは古典的手法の再検証を理論的に実践し、「新規手法の設計」を系統的に実施する方法論を象徴する成果です。
本研究成果は、2025年10月23日にPhysical Review 亲朋棋牌 に掲載されました。
図 信号復元性能の相図。デフォルトモデルのズレに対して、復元成功領域と失敗領域の間に境界(相転移点)が存在
【用語解説】
注1. 最大エントロピー法
欠損やノイズによって観測データが限られている場合に、その観測情報と事前の仮定(デフォルトモデル)をもとに、できるだけ偏りのない推定を行う手法です。エントロピー(不確かさの尺度)を最大化する原理に基づき、地震波解析、天文学、量子化学など幅広い分野で用いられてきました。
注2. デフォルトモデル
最大エントロピー法で推定を行う際に「信号が本来どのような分布をしているか」という事前の仮定を表すものです。一般には正規分布や、観測対象である現象に対するモデルによる予測が用いられます。デフォルトモデルが実際のデータ分布と大きく異なると、復元結果が誤った方向に偏ってしまうため、その選び方が解析の信頼性に直結します。
注3. 相転移現象
物理学で、水が氷や蒸気に変わるように、ある条件を境に状態が急激に変わる現象を指します。本研究では、復元の成功と失敗が「境界」を持って分かれることを意味し、わずかな条件の変化が突然の性能崩壊につながることを示します。
注4. L1ノルム最小化
「信号は多くの成分がゼロで、一部だけが重要」という"スパース性"を仮定し、その情報を利用して復元を行う手法です。近年、圧縮センシングや機械学習で注目されており、デフォルトモデルを必要としないため、MEMと比べて優れた性能を示す場合があります。
【論文情報】
タイトル:Typical reconstruction limit and phase transition of maximum entropy method
著者:Masaru Hitomi* and Masayuki Ohzeki
*責任著者:東北大学大学院情報科学研究科 特任助教 人見将
掲載誌:Physical Review 亲朋棋牌
DOI : https://doi.org/10.1103/bg58-lpt2
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院情報科学研究科
教授 大関真之
Email :mohzeki*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
TEL: 022-795-5899
(報道に関すること)
東北大学大学院情報科学研究科
広報室 鹿野絵里
Email: koho_is*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
TEL: 022-795-4529

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