2025年 | プレスリリース?研究成果
セラミックスにおける新拡散メカニズムを発見 ―セラミックスの焼結メカニズムの解明と新たな粒界設計指針の構築―
【本学研究者情報】
〇材料科学高等研究所 教授 幾原雄一
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 原子分解能電子顕微鏡法により、結晶粒界における拡散最前線の原子構造の直接観察に成功した。
- 粒界を拡散する原子が、結晶粒界の原子構造を変化させながら拡散することを初めて明らかにした。
- 電子顕微鏡法と理論計算による原子レベルでの拡散機構の理解に基づき、効率的で高性能な多結晶体材料の開発に繋がることが期待される。
【概要】
東京大学大学院工学系研究科附属総合研究機構の幾原 雄一 東京大学特別教授(兼:東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)教授)、柴田 直哉 教授、フウ ビン 特任准教授、二塚 俊洋 特任研究員らのグループは、原子分解能電子顕微鏡法(注1)と理論計算(シミュレーション、注2)を駆使することにより、原子が結晶粒界(注3)を拡散(注4)する際の新しいメカニズムを明らかにしました。
セラミックスを焼結する際には、さまざまな元素を添加することで、焼結の促進や、微細構造の制御が行われています。焼結の進行に伴い、添加元素が粒界を拡散することは知られていますが、これらの元素が粒界中のどの原子位置を通って拡散するのかについては、これまで明らかにされていませんでした。
本研究では、チタン(Ti)を添加したアルミナ(α-Al?O?)の結晶粒界を対象に、原子分解能走査透過型電子顕微鏡(STEM、注5)と、エネルギー分散X線分光法(EDX、注6)による原子分解能組成分析を組み合わせ、Ti原子が粒界を拡散する際にどのような原子位置を通過するのか、さらに拡散先端における粒界の原子構造がどのように変化するのかを解明することに成功しました。
解析の対象としたアルミナ粒界は非対称な原子構造を有していましたが、Tiが粒界を拡散し、その濃度が増加すると、粒界構造が対称構造へと変化することを見いだしました。この結果は、Tiの粒界拡散に伴って粒界構造が変化する「粒界相変態」が生じることを示しており、第一原理計算によってもその合理性が裏付けられました。
これらの成果は、セラミックスにおける最適な焼結条件の設定や、形成される微細構造の予測に新たな知見を与えるものであり、今後の材料設計に重要な指針を提供します。なお、本研究成果は2025年11月7日(英国時間)に、英国科学誌「Nature Communications」のオンライン版に掲載されました。
本研究の概要:アルミナセラミックス(Al2O3)結晶粒界(赤丸はアルミニウム(Al)原子)をチタン(Ti)原子(緑丸)が拡散する過程の模式図。拡散は、(a)から(e)へと進行する。(a)における粒界構造は非対称であり、少量のTiが拡散しても非対称構造のままである(b)。しかし、Tiの量が多くなると、対称構造に変化し(c)、この対称構造が粒界の中へと拡散していく(d)(e)。本研究では、このような粒界構造変化を伴う粒界拡散が存在することを初めて実証した(二段階拡散過程)。
【用語解説】
(注1)原子分解能電子顕微鏡法
0.1nm以下に収束した電子線で試料上を走査し、透過?散乱した電子線の強度分布から原子配列を直接観察する手法。現在の空間分解能は0.04nmにまで達しており、材料内部の結晶粒界などの原子構造を直接観察できる。
(注2)理論計算(シミュレーション)
コンピューターを用いて材料の性質を予測する計算手法。
(注3)結晶粒界
多結晶体の結晶粒子間に形成される界面。微細な結晶粒により構成される多結晶体中には多数の結晶粒界が存在する。
(注4)拡散
固体中の原子が濃度勾配に従って移動する現象。
(注5)走査透過型電子顕微鏡(STEM)
電子線を1nm以下に収束し、試料上を収束した電子線で走査することにより、試料を透過?散乱した電子線の強度分布を用いて結像する方法。特に、0.1nm以下に収束した電子線を用いる場合、原子像が直接観察できるので、本報では原子分解能電子顕微鏡法(注1参照)と呼んでいる。
【論文情報】
雑誌名:Nature Communications
題 名:Two-step grain boundary diffusion mechanism of a dopant accompanied by structural transformation
著者名:Chuchu Yang, Bin Feng*, Toshihiro Futazuka, Naoya Shibata, Yuichi Ikuhara*
DOI:10.1038/s41467-025-65745-5
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学材料科学高等研究所
教授 幾原 雄一
TEL: 022-217-5929
Email: yuichi.ikuhara.b3*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学材料科学高等研究所
広報戦略室
TEL: 022-217-6146
Email: aimr-outreach*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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