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RNAがALS発症を抑える「防御役」として働く -ALSなどの治療法の確立に期待-

【本学研究者情報】

〇大学院薬学研究科生物構造化学分野 助教 田原進也
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 筋萎縮性側索硬化症(ALS)(注1)の原因タンパク質が細胞内で固まる(凝集する)のを、RNAがどのように防ぐかを明らかにしました。
  • 短いRNAはタンパク質が集まる液状の粒(液滴)の中に入り、凝集を防止するのに対し、長いRNAは液滴そのものを解消することがわかりました。
  • RNAがALS発症を抑える「防御役」として働いていることを提案しました。

【概要】

筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経変性疾患(注2)は、特定のタンパク質が異常に固まる(凝集する)ことにより引き起こされます。タンパク質の異常凝集は、液-液相分離(LLPS)と呼ばれるタンパク質が高濃度に集まった液体状態(液滴)を経由して生じることが提案されています。近年、細胞内に豊富に存在するRNAが、この液滴の形成や凝集を調節していることが報告されていましたが、どのような仕組みで制御しているのかは不明でした。

今回、東北大学大学院薬学研究科の小倉泰成大学院生、松浦宇宙大学院生(研究当時)、田原進也助教、中林孝和教授らは、細胞内にある分子をそのまま観察できるラマン顕微鏡(注3)を用い、ALS原因タンパク質FUS(注4)とRNAの相互作用を詳しく調べ、RNAがFUSの液滴形成や凝集をどのように抑えるかを明らかにしました。さらに、生きた細胞の中でも液滴内にRNAが多量にあることをはじめて確認しました。

この成果は、ALSをはじめとする神経変性疾患の新しい治療法の開発につながり、今後の創薬研究への応用が期待されます。

本研究成果は、2025年11月3日(米国時間)に米国化学会の国際誌JACS Auに掲載されました。

図1.(A)FUS液滴は1時間後に凝集体に変化した。左図の円形の構造体が液滴であり、右図のモザイク状の構造体が凝集体。(B)短いRNAを加えるとFUSは1時間後においても液滴状態を保持していた。(C)長いRNAはFUSの液滴を消失させた。(D)FUS液滴のラマンスペクトル(黒実線)。FUSのラマン信号が多数観測された。短いRNAを加えると、RNAのラマン信号が現れ(赤実線)、RNAがFUS液滴内部に濃縮されることが確認された。(E)細胞内の核酸とタンパク質のラマンイメージ。矢印で示した箇所がFUS液滴。液滴内に核酸(RNAおよびDNA)とタンパク質のラマン信号が強く観測された。

【用語解説】

注1. 筋萎縮性側索硬化症(ALS):運動神経細胞の機能不全により、呼吸や手足の運動が困難になる進行性かつ致死性の疾患。根本的な治療法は確立していない。

注2. 神経変性疾患:神経細胞死や機能不全によって引き起こされる疾患の総称。ALS、アルツハイマー病、パーキンソン病が代表例。

注3. ラマン顕微鏡:試料中のマイクロメートル程度の微小領域におけるラマン散乱光を観測する顕微鏡。物質に光を照射すると、照射光よりも分子の振動エネルギー分だけ低エネルギーのラマン散乱光が発生する。ラマン散乱光のスペクトルから分子構造を解析できる。

注4. Fused in sarcoma (FUS):細胞核内に存在するRNA結合タンパク質。mRNAのスプライシングや細胞質への輸送に関与する。一方でALSの病態では細胞質に凝集体を形成することから、FUSの凝集体がALSの原因タンパク質の一つであると考えられている。

【論文情報】

タイトル:RNA-mediated inhibition mechanism of liquid-liquid phase separation and subsequent aggregation revealed by Raman microscopy
著者:小倉泰成、松浦宇宙、町田雅人、永井海地、梶本真司、田原進也*、中林孝和*
*責任著者 東北大学大学院薬学研究科 教授 中林孝和、助教 田原進也
掲載誌:JACS Au
DOI: 10.1021/jacsau.5c01234

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院薬学研究科 生物構造化学分野
教授 中林 孝和(なかばやし たかかず)
TEL:022-795-6855
Email:takakazu.nakabayashi.e7*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

助教 田原 進也(たはら しんや)
TEL:022-795-6856
Email:shinya.tahara.c6*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院薬学研究科 総務係
TEL:022-795-6801
Email:ph-som*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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