2025年 | プレスリリース?研究成果
身体に宿る"知能"を活かすミズクラゲサイボーグ 小さなAIモデルによる泳ぎの予測に成功!
【本学研究者情報】
〇大学院工学研究科 ロボティクス専攻
准教授 大脇 大
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- クラゲの泳ぎに潜む"自発リズム"が、動的性質(自己組織化臨界現象(注1))によって生み出されていることを初めて観測しました。
- 筋肉(注2)に最適なタイミングで電気刺激(注3)を与えることで、自発リズムを活かしたクラゲの泳ぎの誘導が可能になります。
- ミズクラゲ(注4)の身体の動きを"知能"の一部として利用し、泳ぐ速度を予測するAIモデル(ハイブリッド物理リザバー(注5))の開発に成功しました。
- 生物に本来備わっている運動性能を活かすことで、少ない電力と計算で動くサイボーグロボット(注6)の制御技術に繋がります。
【概要】
過酷な災害現場などでの調査への活用を目指した、生物の運動能力と電子制御を組み合わせた「生物サイボーグ」の研究が注目されています。
東北大学大学院工学研究科の大脇大准教授、山形県鶴岡市立加茂水族館の池田周平飼育課係長、奥泉和也館長、東京大学大学院情報理工学系研究科のAUSTIN MAX PHILIP(オースティン マックス フィリップ)特任助教、中嶋浩平准教授の研究グループは、ミズクラゲの筋肉に電気刺激を与えることで泳ぎを誘導し、その動きをシンプルな人工知能(AI)で予測する技術の開発に成功しました。そこに独自の3次元運動計測装置と筋肉電気刺激装置を組み合わせることで、自発的な遊泳リズムの特徴を明らかにし、予測可能な遊泳を生み出す最適な電気刺激入力を特定しました。将来的に海洋調査や環境保全のための自律型サイボーグロボットの開発につながる技術です。
本研究成果は、2025年5月23日18:00に科学誌Nature Communicationsに掲載されました。

図1. ミズクラゲハイブリッドリザバー計算システムによる運動予測
【用語解説】
注1. 自己組織化臨界現象(Self-Organized Criticality):自然界にしばしば見られる現象で、システムが外部からの細かな調整なしに自律的に臨界状態(小さな変化が大規模な反応を引き起こしうる状態など)へと移行する性質を指す。雪崩や地震の発生にも関連する概念。
注2. 筋肉:生物の運動を担う組織。ミズクラゲにおいては、傘の縁に存在する環状の筋肉が収縮と弛緩を繰り返すことで遊泳運動を生み出す構造。
注3. 電気刺激:生体組織に微弱な電流を流すことで、筋肉の収縮などを人工的に誘発する手法。医療や神経研究などでも用いられる技術。
注4. ミズクラゲ:日本沿岸に広く分布する円形の透明なクラゲ。学名はAurelia coerulea。
注5. 物理リザバー(Physical Reservoir):複雑な物理系を情報理デバイスとして活用する枠組み。生体や柔軟構造物などが入力に対して動的応答を示す性質を利用する計算手法。
注6. サイボーグロボット:生物と人工機構を融合させたロボット。生体の運動能力に外部からの制御装置を組み合わせることで、機能拡張や操作を可能にするシステム。昆虫サイボーグ(Sato et al. Front. Integ. Neurosci.,2009)、クラゲサイボーグ(Xu et al. Sci. Adv. 2020)など。
【論文情報】
タイトル:Harnessing Natural Embodied Intelligence for Spontaneous Jellyfish Cyborgs
著者:Dai Owaki*, Max Austin, Shuhei Ikeda, Kazuya Okuizumi, Kohei Nakajima
*責任著者:東北大学大学院工学研究科 准教授 大脇 大
掲載誌:Nature Communications
DOI:10.1038/s41467-025-59889-7
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院工学研究科
准教授 大脇 大
TEL:022-795-4064
Email: owaki*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院工学研究科情報広報室
担当 沼澤 みどり
TEL: 022-795-5898
Email: eng-pr*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
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